同人誌の楽しみのひとつに「装丁(そうてい)」があります。せっかく自分で出す同人誌です。印刷所さんに頼むのであれば何かしてみたい!と思うことは無いでしょうか。
しかし、発注するにしても、どんな種類のものがあるの・・?と躊躇してしまいますよね。
そこでここでは、基本的で初心者でもできる・発注しやすい加工をご紹介します。また、それぞれの加工がどのようにされているのかも併せてご紹介します。
表紙のコーティング:PP加工
印刷所さんで本の印刷をお願いすると、多くのパックに含まれているのが「PP」です。パックに含まれていたり、標準装備だったりすることからも分かるように、「PP」はとても基本的で、多くの人が利用している加工です。
この「PP」とはどのような加工なのか、またPPの種類についても解説します。
PPとは
PPとは「ポリプロピレン」のことです。ポリプロピレンの薄いフィルムを、熱で用紙に圧着させます。(加工風景:株式会社東京加工さん)
PP加工は、主に表紙にするものです。PPフィルムを表紙に貼ることで、傷や汚れなどを防ぐことができるほか、フィルムの種類によって、さまざまな効果を得ることができます。
クリアPP・グロスPP
最も多く利用されている種類の加工です。クリアなPPフィルムを用紙に熱圧着させます(接着剤を使用したり・接着剤と熱を併用することもあります)
- 色彩がより鮮やかになる
- 表面が守られるので、傷がつきにくくなる
- ポリプロピレンのフィルムなのでほんの少しなら水がかかっても大丈夫(表面のみ。本の横/小口や表2はダメ)
- インキの剥がれ、こすれを防止する
とても基本的な加工ですが、気をつけなければいけないこともあります。
クリアPP・グロスPP加工の注意点
色が思ったより濃く見えることもある
PPを貼ることで、印刷面がグロス加工をしたのと同じ状態になります。そのため、印刷された色が乱反射せずにそのまま映るので、色が濃く・はっきりしたように見えます。
よく目立ち、カジュアルで明るい印象を与える一方、落ち着きやシックな印象からは離れてしまうこともあります。そのような時は、PPを貼らない選択もありです。また、後に出てくるマットPPやベルベットPPにしたり、特殊紙などで素材そのものの風合いを外に出すのも良いでしょう。
オンデマンドと相性がよくないこともある
オンデマンド印刷をした時は、トナーのテカりおさえやはがれ防止・表面保護のために、PP加工が推奨されることもあります。しかし、オンデマンド×PPは、相性が悪いケースもあります。用紙によっては不可のこともあり、また、トナーの盛りが目立つこともあります。印刷前に、印刷所さんに確認するようにしましょう。
用紙によっては不向き
110kよりも薄い用紙(例えば同人誌の本文くらいや、コピー用紙など)にPPを貼ろうとすると、ヨレ、シワ、空気の入り込み(気泡)などの原因になります。できるだけ110~135kよりも厚い用紙にしましょう。
また、特殊紙はPP加工に向いていないことが多いです。特殊紙を使用してPP加工を希望する際は、必ず印刷所さんに確認するようにしましょう。
PP加工に不向きな用紙を選んだ場合は、ニス引き(ニス加工)という選択肢があります。これは、やっている所とやっていない所があるので、確認してください。
ニス加工についてはまた別項目で紹介します。
マットPP
クリアPPがグロス効果があるのに対して、落ち着いた仕上がりになるのがマットPPです。手触りはしっとりとして、用紙がふかっとしたような印象になります。光沢が無いため反射がおさえられ、クリアPPとは逆に、色味が全体的に落ち着きます。
クリアPPに対してこちらは、シックな印象の本や、大人の落ち着き・スタイリッシュさを出したい本にも向いています。滑らかな触り心地ですが、やわらかいため、表面を保護するのには向いていません。本そのものに傷はつきませんが、PPの表面に傷が目立つのです。
マットPPはクリアPPに比べて原価が高いため、加工料金が少し高いことが多いです。お財布と相談をして、自分がどのような本を作りたいのかよく考えて、印刷屋さんに問合せをしたり、資料を請求したりしましょう。
マットPP向きの表紙・用紙
- 落ち着いた印象、しっとりとした雰囲気を出したい本
- ポップで明るいイメージではないもの
- 白背景など、全体的に薄い色の表紙
- オンデマンドで、表紙のトナーの盛りを目立たなくさせたいとき
特殊紙にクリアPPを貼ると、紙の風合いが消えてしまうことがありますが、マットPPを貼ると、いい感じに仕上がることが多いです。例えばマーメイドにマットPP加工をすると、マーメイドの独特のエンボス感と、マットPPのしっとりとした手触りが重なって、とても良い出来になります。
マットPPでは気をつけたい表紙・用紙
- 明るくポップではっきりとした印象の色合いの表紙→落ち着いてしまう
- 全体的に濃い色のベタ面が大きいもの(傷が目立ちやすい)
また、クリアPPと同じく、薄い用紙には向いていません。
ベルベットPP
マットPPよりもさらにしっとり・ぬめっとし、毛並みのそろった毛皮を撫でているような手触りになります。マットPPよりも傷に強く、発色が少し明るくなります。
ベルベットPP加工の注意点
クリアPP・マットPPよりも接着が弱くはがれやすいため、背や三方の断裁面に濃い色のベタがあるデザインのものは向いていません。※CMYK合計が300パーセント以上になるとダメなことが多いようです。
特に、背表紙部分に濃い色を持ってくるのは避けましょう。
特殊PP(ホログラムPP)
先月お送りした会報にホログラムPPのサンプルを同梱しておりますので、お持ちの方は是非お手に取って実物のキラキラ感をご確認くださいませ! pic.twitter.com/nTgjdnSekM
— サンライズプレミアムメンバーズ (@sunrisepmembers) 2016年11月10日
ハートや星の模様が入ったPPです。光の当たり方で模様が浮かび出て、キラキラと光り、インパクトを与えます。豪華で可愛い印象を与えますが、気をつけなければいけないこともあります。
- フィルムが通常よりも厚いため、そりかえりが起きることがある
- フィルムの制作上、何冊かに一冊「模様の継ぎ目」が1mm程度出ることがある
- 薄い用紙には加工ができない
- ホログラムPP+箔押し加工はできない
模様部分の微細なエンボスが油類で平滑になるため、模様が薄くなったように見えるのです。拭けば元に戻りますが、夏場の頒布のときは、できるだけ気をつけるようにしましょう。
本の形に関する加工
多くはA5、B5、そして文庫というように規格サイズとなっていますが、正方形などの形にカットしてくれるサービスをおこなっている印刷所さんもあります。規格サイズ以外のもの、規格サイズにプラスして何かできる加工を紹介します。
変形断裁
A5、B5、文庫といった規格サイズではない形にしたいときは「変形断裁」として依頼します。本はそもそも、そのサイズで印刷をしているのではなく、もっと大きな用紙にいくつか並べてレイアウトし、トンボと呼ばれる目印でカットしています。(断裁加工風景:川島印刷さん)
そのため、例えば「正方形にしたい!」「少し違う形にしたい!」という場合でも、相談により受け付けていたり、また「正方形パック」というようにパックで受け付けていることもあります。
サンライズさん | 変形断裁について |
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緑陽社さん | 正方形本 (2018.9.1~2018.11.30まで正方形無料フェア) |
ホープツーワンさん | 変形断裁について(データの作り方など) |
プリントウォークさん | 変形断裁本のデータの作り方 |
オレンジ工房さん | 特殊断裁 |
スズトウシャドウさん | 変形本の作成方法 |
プリントキングさん | 変形断裁について |
この他にも「変形断裁」として、正方形や少し変わった形に断裁をしてくれる印刷所さんは多いです。追加料金がかかることが多いですが、やってみたい!と思う人は試してみることをおすすめします。
- 納期がプラスされることがほとんどなので、あらかじめ締切と納期を確認
- 切り落とした部分をメモ帳などに使えることもある(ダメなこともあるので注意)
- A5のパックで、半分に切ってA6の本を倍数作りたい!というのは不可
角丸加工
本の小口側の角(一般的には表紙の左上・左下の計2か所)を丸くする加工のことです。可愛らしい雰囲気に仕上がります。ほとんどが手作業のため、納期がプラスされます。
また、用紙や本の厚さによっては加工に不向きであることもあります。基本的に、カバーつきの文庫本は不可だと考えた方が良いでしょう。
また、角丸機もご用意しましたので、是非ご自分の本をセルフで角丸しに来てください!!!!!!ちなみに角丸サイズはR10です pic.twitter.com/wK1gevURs7
— プリントウォーク (@printwalk) 2017年8月20日
角丸加工の本の見本です。左上、小口側の角が丸くなって可愛い本になっていますね(引用許可ありがとうございます!)
印刷所さんから連絡あって再録の角丸加工が本文の紙の問題で出来なくなっちゃった…しょぼ…表紙はうまくいったみたいなんだけど厚みがあると本文の紙ちゃんと選ばないといかんのね…学んだ…という訳で幻の角丸画像を上げて供養しておく…かわいくできたのにね…残念… pic.twitter.com/6UIKnXwdLe
— ぱんこ。 (@pancoro3) 2016年12月26日
角丸の半径は印刷所さんによって異なり、10mm、5mm、3mmなどがあります。選べることもありますが、決まっている方が多いです。
角切り加工
印刷所さんによっては、角を丸くするのではなく、角を裁ち落とす「角切り加工」をおこなっている所もあります。シャープかつ、少し変わった印象になりますね。
型抜き加工
型抜き加工には2種類あります。
表紙の一部を抜く加工(レース加工・トムソン加工など)
プリントオンです。角レース加工に期間限定新柄、松タイプが登場です。少し和風の松のレースが、本の角を飾ります。是非一度お試し下さい。春もプリントオンを宜しくお願いします。https://t.co/h2HsWL5Q6q pic.twitter.com/VNb7Gz54Xz
— プリントオン株式会社 (@print_on_tw) 2016年2月13日
角をレースのように型抜き加工したり、小口側を全体的に抜いて可愛くする加工です。トムソン加工は、真ん中などを抜いて、遊び紙や3ページ目の絵柄を見せたりと工夫ができます。
本全体を型で抜く(型抜き加工/型抜き本)
ハートやボールの形など、任意の形の本にしたり、印刷所さんで決められた形にしたりと、さまざまなことができます。型代が別途かかりますが、こだわりを持って「この形にしたい!」というときにおすすめです。
レース加工・トムソン加工については、表紙だけでなく、厚めの遊び紙に加工をして、次のページの何かをチラ見せする、という工夫にも使えます。各社さんのサイトを参考にして、こんなこともできるのかな、と想像をするだけでも楽しいですね。
まとめ
同人誌の加工にはさまざまなものがあり、加工を組み合わせたり、工夫をすることで想像どおりのものや、想像に近いものが作れます。
見た目の形や手触り、香りなど、自分の「作りたい!」を考えて、印刷所さんに相談してみましょう。